第9話
UEの拠点と目される宇宙要塞<アンバット>に攻め入る艦隊。その先頭に立つのは戦艦ディーヴァ、そしてガンダムだ。ザラム派、エウバ派、そしてグアバラン艦隊が一斉に<アンバット>へと襲いかかる。しかし、UEの反撃は予想外に小さい。
グルーデックはUEの正体と狙いを掴むべく、揚陸艇を要塞内部へと突入させる。フリットの駆るガンダム・タイタス、そしてウルフのGエグゼス、ラーガンのジェノアスはそれを支援すべく要塞奥深くへと進む。
しかしそこにUEの巨大MS、デファースが立ちはだかる。フリットらは3対1であるにも関わらず、揚陸艇を守るのがやっとだ。フリットは要塞内部の狭い通路にデファースを誘い込み、遂にこれを撃墜する。しかしデファース頭部から小型のMSであるファルシアが分離し、再びガンダムに襲いかかる。不意をつかれ追い込まれるガンダムに、ファルシアから呼びかける声。それは意外にもユリンだった。
何故と問うフリットに、ユリンは真相を語る。
ユリン、デシルは人間兵器、「Xラウンダー」として生み出された姉弟であること。そしてヤーク・ドレが彼らをより完璧な兵器とすべくフリットに近づかせたこと。
「ばかな…それになぜぼくに?」
「それは…あなたもまたXラウンダーの末裔だからよ!」
「末裔?」
「あなたの両親は祖国も任務も捨てた裏切り者…ヴェイガンのXラウンダーだったのよ! だから私が粛正した!」
「!」
絶叫するフリット。
一方そのころ、上陸した陸戦隊はUEのコンピュータにアクセスしていた。陸戦隊に参加していたバルガスはそれを解析する。かつて地球圏を巡る大戦争で連邦軍に敗れたヴェイガンが火星へと逃れ、再起を図ったこと、そしてその過程で人間兵器Xラウンダーを生み出したが、その大半は定期的にコールドスリープを繰り返さねばならないこと。そしてその欠点を補正すべく特殊に調整された二人こそ、ヴェイガンから脱走したフリットの両親であったこと。
「ばかな…あのフリットがUEの人間兵器の子だと…」
一方、ユリンはフリットに語りかける。同志になれ、と。
「ばかな…ぼくは両親の敵を討つべくガンダムに乗ったんだ!」
「ここにいればあなたの命もないのよ、フリット!」
「もうやめなよ、ユリン姉さん…こいつはしょせん不良品の子…コールドスリープは不要でも、ヴェイガンの正義すら理解できない不良品さ」
冷たく言い放つのはデシルだ。
ユリンの言葉から、要塞そのものがUE…ヴェイガンの罠だと気付いたフリットは、タイタスユニットを捨てることでかろうじてファルシアの手から逃れウルフらと合流する。
「ウルフ、バルガス…みんな急いで逃げるんだ! ここは…この要塞そのものが罠だったんだ!」
第10話
フリットからの知らせを受け、要塞のメインシステムを確認するバルガス。要塞の中央動力炉は自爆モードに入っており、爆発までわずかな時間しかない事がわかった。
離脱を支援しようとするザラム派、エウバ派の背後からヴェイガンのMSたちが襲いかかる。要塞もろとも彼らを始末すべく、ヴェイガンは伏兵をおいていたのだ。
窮地に立つ彼らを守るべく、グアバラン艦隊が割って入る。
「舐めるな! 痩せても枯れても、地球圏を長きにわたって守ってきたのは俺たち連邦軍だ!」
どうにかディーヴァと合流したフリットはいそぎガンダムをスパローに換装、退路を切り開くべき先行する。
しかしそこに2体のMSが立ちふさがる。ユリンのファルシア、デシルのゼダスだ。
「フリット、お願い! 私たちの仲間になって!」
「ユリン! 君は…僕の両親を手にかけながらそんなことを!」
「やめなよ、姉さん。こんな不良品の回収は僕たちの任務に含まれていない!」
戦闘の中、交錯する3人の声。
それを母艦で傍受しながら、ヤーク・ドレはつぶやく。
「なるほど…ユリンには感ずるところがあったようだな」
ユリンとデシルはフリットを追い込みながら、なかなかとどめをさせない。
「姉さん! なにをためらっている!」
「だめ…だめなの…私にフリットは殺せない!」
「フリットォ! 姉さんは、姉さんは僕のものだぁ!」
突進するデシルのゼダス。しかしその刃は、ガンダム・スパローでなくファルシアを貫いてしまう。
フリットとデシルの絶叫の中、ユリンは散華する。
その間隙を活かし、突破を計るディーヴァ、ザラム派、エウバ派、グアバラン艦隊。
グルーデックは突如ディーヴァを180度回頭させる。
「マッドーナ、あれを使うぞ!」
「し、しかし」
「敵の罠を逆手に取る! 急げ!」
マッドーナは連邦軍からハッキングしたコードでディーヴァの秘められた力…ハイパーメガ粒子砲を起動させる。それが放つ光弾は<アンバット>の動力炉を貫いた。
予想外に早い爆発に巻き込まれるヴェイガンのMS群。
戦いの主導権を失ったヴェイガンは敗走する。生還と勝利に喜ぶクルーらを他所に、フリットはガンダムのコクピットで絶叫するのだった。
第11話
<ミンスリー>へと凱旋するグルーデックら。
彼らを迎え入れたバーミングスに、グルーデックは問う。あなたが、「天使の落日」を招いた張本人だろう、と。
当惑するフリットらに、平然とバーミングスは答える。そのとおり、と。
かつてザラムの一員として連邦と対決した彼は、連邦の枠組みを崩すべくUE=ヴェイガンと手を組んでいたのだ。地球圏では継続的な戦闘が困難なヴェイガンを利用する事で連邦政府を混乱させ、ザラムなど旧派閥を再興させることこそ、彼の目的だったのだ。
「そんなことのために妻を…子を…多くの人達の命を奪ったというのか!」
「笑わせるな! ドン・ボヤージらがなぜ今まで連邦に屈しなかったと思っている! 連邦という形骸を守るために、どれほど多くのザラムが命を落としたか! ザラムだけではない、エウバも、そしてヴェイガンも連邦の大義のためにどれほどの血を流したか!」
「そんな理屈!」
「そう理屈じゃない…暴力がすべてを決める! そして君らもここまでだ!」
襲いかかってくるのはデシル率いるヴェイガンのMS。彼らはバーミングスの屋敷ごとグルーデックらを抹殺しようとする。
しかしフリットはAGEデバイスをかざし、ガンダムを呼ぶ。
「デシル、君は言ったね…ぼくもまた人間兵器だと…だからAGEデバイスを操れると…その力…今、君に見せてやる!」
鬼神が取り憑いたかのごとくガンダムは跳躍し、つぎつぎとヴェイガンのMSを屠る。
戦いの混乱の中、<ミンスリー>外壁が裂ける。
2体のMS、フリットのガンダムとデシルのゼダスは虚空へと投げ出されながらも戦い続ける。
「よくも…よくも僕に姉さんを殺されたな!」
「お前たちヴェイガンがユリンに戦いを強いた!」
「その何がいけない? 両親の敵を討とうというお前と、失われたヴェイガンの民の復讐、何が違う!」
「子供の言うことか!」
「ふ…ははは! 甥っ子に言われるとはな」
「?!」
「教えてやろう、フリット。ユリン姉さんと僕はお前の母親と同じ有機AGEシステムから生まれたんだ。つまり、君は僕の甥っ子ってことさ…ユリン姉さんはお前の母親と同じ因子を多く含んで設計されていたからね…君はママの面影をユリン姉さんに重ねていたのさ」
「僕はそんなことでユリンに恋したんじゃない! 人間として!」
「何度言わせる! 人間兵器なんだ、僕もお前も、そしてユリンも! だからこそユリン姉さんはお前の両親を…同族を手にかけることができた!」
「彼女は人間だ!」
交錯するビームサーベル。そしてついにガンダムのそれがゼダスを貫く。
「そうだ…それでいいフリット…お前もまた人間兵器だ…僕という同族を殺せる…人間兵器だ!」
爆光に散るデシル。
一方、火災と暴風の中、グルーデックとバーミングスは対峙する。
「わたしを撃つのか、グルーデック。それも良かろう。しかしそれで復讐は終わらないぞ。ヴェイガンはまた地球圏に戻ってくる。彼らを根絶やしにするまで、復讐の炎はお前の中で燃え続ける」
「私は私であって私でない。妻と子を失ったあの日から…私は復讐すべく放たれた弾丸なのだ!」
グルーデックの銃が火を噴き、バーミングスの胸を貫く。倒れたバーミングスをグルーデックは虚ろに見下ろす。燃えさかる炎の中、一人彼はつぶやく。
「フリット…お前もまた私と同じだ…復讐の弾丸…憎しみにとらわれた…呪われた弾丸だ…」
ここに、一つの戦いが終わる。幾とせかの平和が、たとえ偽りであっても続く。そして憎悪も続き、新たな物語へと世界と人々を導く…。
「逆襲のフリット」編へと続く(嘘です)