- 私の認識では、「シー・ベース」とは敵地から40km以上離れた外洋に埠頭、空港、物流倉庫、データセンターを構築し、そこを兵站拠点とした一定レベルの継続的な攻勢を実現せしめるもの
- 「シー・ベース」はメガフロートなどの洋上構造物ではなく、一定以上の快速で機動できる艦船で形成される
- 外洋という不安定なエリアで、本当にそんなことが可能なのか? 波浪や気象の影響は排除できるのか?
- 小型舟艇や小型機などによる自爆攻撃などから本当に守りきれるのか?(近寄れば皆殺し、というなら別だが…)
- 極めて迅速に中規模以上の戦力投射ができるというメリットはわかるが、そこまでの即応性が必要なのか? 重要性があるエリアなら、まず外交手段で安定化を図る(また、有事の際に即応できる拠点をその付近に設ける)のが健全な戦略ではないのか?
- 陸海空軍の仲が悪いのはどこの国でもよくあることだが、ここまで空軍や陸軍との協力を無視した構想が出てくるというのは、米軍全体としての統合が揺らいでいるのではないか?
「洋上基地」が米海軍で最初に構想されたのは実に20世紀初頭のことです。
この構想は第二大戦で「Service Force」として実現に移され、マーシャル諸島から沖縄に至るまでの島嶼攻略戦の後方を支援しました。数百隻から成る艦隊が、整備休養のローテーションあるいは重大な損傷を除いて、一度も帰港せずに行動を続けられたのは全てこの「洋上基地」のおかげです。
米海軍は現代にこの構想を復活させるに十分な資源、技術、経験を持っており、軍事的に可能かと問われればもちろんイエスです。もとより、海兵隊の事前集積船団もこの種の基地の性格を備えているものと言えます。
>小型舟艇や小型機などによる自爆攻撃などから本当に守りきれるのか?
原始的な航空機や小船舶が外洋で海軍部隊に攻撃を仕掛けて成功させられる見込みは限りなくゼロロです。たちまち早期警戒機に探知され、破壊されるでしょう。この類いの戦術が有効なのは沿海または泊地での奇襲だけです。
>米軍全体としての統合が揺らいでいるのではないか?
それはあり得ません。ペンタゴン内部での勢力争いはすさまじいものですが、巨大な米軍では海軍や空軍が一致団結していることはなく、軍種内部の派閥もそれぞれ大きな力を持っているのです。
しかしそれも行政(予算獲得競争)上の争いであり、作戦部隊は完全に統合軍司令部の強力な指揮下に置かれており、例えば海軍だけが勝手に「洋上基地」の構想や運用を独占するなどと言うことは考えられません。むしろ逆に、これが実現に近づくならば、(例えば空軍の次期爆撃機計画と連携した)統合的運用が非常に重視されることになるでしょう。
その他の疑問は、コストをどう評価するかという問題につながるので一概にどうとは言えません。
ただ、これは平時よりも有事向けの構想であるだろうとだけは言えそうです。
投稿情報: ばべる | 2008-09-20 18:27
「歴史群像アーカイブ3」(学研)中の「怒涛の米軍大物量戦」がご参考になるかと。
投稿情報: ばべる | 2008-09-20 18:32
とはいえ、アメリカといえどもノルマンディー上陸後は人工港湾マルベリーを必要としたのですよね。
「シー・ストライク」では海上から敵地への侵攻を継続的に行うようですから、「シー・ベース」はマルベリーなみの役割を期待されているのではないでしょうか。
倉庫番の経験のある私としては、洋上に浮かぶ複数の船が港湾や物流倉庫の代わりをできるとは、ちょっと考えづらいのです。物品の仕分けって、結局面積ですから。
40数キロというのは、微妙な距離のように思えます。陸地から接近するシンプルな舟艇・航空機が「敵性か否か」を判断するための時間はひどく限られるように思われます。敵がそれを利用するおそれはないでしょうか。
>統合的運用
たしかに。海軍についてのみの記述を見て、私が勝手に思いこんでいたようです。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2008-09-20 19:59
マルベリーは構築直後に荒天で破壊され、事実上一度も機能せず、計画倒れに終わっています。
さらに言えば、オーバーロード作戦の後方支援は第二次大戦の連合軍の大作戦の中では最悪の事例だと軍事史では考えられています(海岸堡から内陸への突破に二か月もかかった理由は、ドイツ軍の抵抗ではなく補給計画の大失敗です)。
>40数キロというのは、微妙な距離のように思えます
その通りです。つまりこれは大戦の時のような正規戦用の前進基地ではなく、非対称戦における「フロム・ザ・シー」ドクトリンのための基地です。
例えばソマリアの対海賊掃討のために沿海占領作戦、あるいは敵対的な南米諸国に対する限定的な侵攻作戦等が近い将来のシナリオとして考えられるでしょう。
>陸地から接近するシンプルな舟艇・航空機が「敵性か否か」を判断するための時間はひどく限られるように
・敵の航空及び海上戦力が健在な着上陸開始前に「洋上基地」が沿岸に近づく必要はない
・敵の航空及び海上戦力の基地は特殊部隊に支援される航空打撃によって着上陸前に破壊される
・不十分な電子装備と情報しか持たないそのような軽航空機や船舶が、どのように「洋上基地」の正しい位置と針路をリアルタイムで知ることができるのか?
・航空機はともかく、約20ノットで移動する「洋上基地」の大型艦船に、洋上の波に揉まれる小型船舶がどうやって追いつくのか?
このような奇襲が有効であるならば、現代のミサイル艇にももっと活躍の場があるはずですし、そもそも大戦末期の枢軸軍による特攻ボートや小型潜水艇の攻撃がもっと戦果を挙げているはずです。
投稿情報: ばべる | 2008-09-20 20:45
確か、イラク戦争の時に空輸力を重視したロジックが結局うまく廻らず、海上輸送力を強化せざるを得なかった…という経緯があって、その後のイラク戦争の輸送に関する研究から、やはり結論として海上輸送力の強化が必要…という結果が出て、それで最初は巨大浮体構造物による海上輸送力の強化が持ち出されたんじゃなかったでしたっけ?
投稿情報: ていとく | 2008-09-20 21:51
>イラク戦争の時に空輸力を重視したロジックが結局うまく廻らず
そうですね。
しかし戦略輸送をほぼ全面的に航空化することは米軍の長年の悲願であり、中期的には5個重師団を地球上のどこにでも1か月以内に展開できる能力の保有が目標とされています。
この目標が現在のところ実現困難なことが、かつての洋上基地構想の復活につながっているのだと考えます。
メガフロートが採用されるか否かは、上にも書きましたがコストパフォーマンスで全て決まるでしょうが、もし構想が実現するとすれば、結局は国費の助成を受けた民間または半民間船舶の徴用という形がメインになるような予感がします。
投稿情報: ばべる | 2008-09-20 22:48