米政府が打診しているのはエアボーン・レーザー(ABL)システムで、大型航空機に高出力のレーザー砲を搭載し、偵察活動でミサイル発射の可能性が高いと判断すれば出動。数百キロ離れた上空から発射直後の上昇(ブースト)段階にある弾道ミサイルにレーザーを照射、爆破させる。米空軍がボーイング社などと契約、研究・実験を続けているが、配備までに数千億円規模の開発費がかかるといわれ、技術開発の遅れが指摘されていた。
弾道弾の速度が最も遅い時に、最も高速な兵器で狙い撃つ。そういった意味では実に理にかなった手段だ。
ほとんど気休めとしか思えないパトリオットに比べれば、金をかけるべき計画だろう。
最近、TMDがらみで、イージスと同じように中身がブラックボックスのままのシステムを買わされる事例が増えてきているようですが、もし本当の意味での「共同研究」が行えて、工学的な成果を引き出せるのであれば長期的な見地からは賛成。
しかし短期的に、ABLがMD任務において抜群の費用対効果を示せるのかどうかいう点についてははなはだ疑問です。
交戦距離百kmオーダーの大気圏中での運用という条件自体が、レーザーのDEWとしての利点を甚だしく損なっています(狭い視射界、エネルギー減衰、容易で効果的な対抗策)。艦載レーザーのような戦術用途はともかく、戦略的な要撃手段としてのレーザーは宇宙での運用が本来の形であって、その意味ではABLのMD任務はあくまで実験の性格を脱し得ないものではないかと考えます。
そこまで踏まえた上で、日本は多額の資金と資源をこの計画に投じるべきか、という議論を期待したいところですが。
投稿情報: ばべる | 2005-01-10 14:42
レーザーよりもイージス艦よりもパトリオットよりも、確実なのは敵ミサイル基地攻撃だ…ってのは言っちゃいけないんでしょうね。
対北朝鮮では意味があっても、対中国では使えない=アメリカにとってはさして意味がないわけですから。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2005-01-10 21:16
>ミサイル基地攻撃
中谷(2002年5月20日衆院事態委)、石破(2004年1月24日衆院予算委)両防衛庁長官が、「攻撃が切迫している場合には敵基地に対する先制攻撃は憲法解釈上可能である」との見解を公に示しており、内閣法制局もこれを支持していますので、具体的な議論への道筋は開かれています。
しかしこれは、決して今になって新しく出来した問題ではありません。1959年の防衛庁設置法改正をめぐる審議の過程で、冬至の伊能防衛庁長官が先制攻撃を憲法解釈上可能とする答弁を既に行っています。
1959年3月18日衆院内閣委
ttp://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/031/0388/03103180388020c.html
1959年5月1日衆院本会議
ttp://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/031/0512/03105010512027c.html
ちなみに中国原潜僚船救助のため領海侵犯説の前田哲男東京国際大教授によれば「自衛隊は専守防衛なので先制攻撃などとんでもない」とのことですが、上の事実を考えると、これはあまり法制史的な批判になっていないような気がします。
ただ問題は、半島の目標(硬目標含む)に対して遠距離打撃を実施する有効な手段が現有戦力に欠けていることで、この点について防衛庁は「研究に着手している」としていますが…
次期戦闘機選定の行く末はどうなるのかまったく分かりませんし、結局のところ、トマホークの配備がもっとも費用対効果のよろしい策なのでしょうが、いずれにせよ偵察・警戒・照準・評価のシステムは別勘定となります。
投稿情報: ばべる | 2005-01-11 08:42
ただし上のような勇ましい方針は現状あくまで半島情勢限定なのであって、例えば尖閣諸島への侵攻についての政府及び防衛庁の見解はこうなります。
ttp://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/011215420020529012.htm
投稿情報: ばべる | 2005-01-11 08:48
747からKEMのような高速ミサイルを発射するというのはどうでしょうね?
時限信管をつけておいて、弾道弾の直前に鉄片の雲を生ぜしめる、とか。
レーザーと比べればはるかに遅いわけですが、同時にレーザーが持つ弱点とは無縁となるわけですから検討してもよいのではないかと思うのですが。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2005-01-16 13:47
>747からKEMのような高速ミサイル
発射探知からブースト段階終了まで数分間。この時間内に、数百kmの標的にミサイルを届かせることはできませんから、このような武器は当然ブースト段階ではなく、ターミナル段階要撃用途となり、ABLとはまったく異なる性格のシステムとなります。
この種のKEWの計画は既に存在します。拠点(要するに「グラウンド・ゼロ」)防御用の「最後の切り札」として構想された「スウォーム」で、再突入体に対して地上から数千発の超高速小型ロケットを斉射するものです。ただしこの武器の有効射程は約2,000mに過ぎず、おっしゃるような大型機に搭載して機動的に戦域防御に運用するというわけにはゆきません。
>時限信管をつけておいて、弾道弾の直前に鉄片の雲を
では、この方式はどうかと言えば、BMDの場合、標的と迎撃体との相対速度が余りにも大き過ぎて、ほんの僅かでも信管作動のタイミングがずれれば、迎撃体の破片の「雲」は標的を遥かに通り過ぎてしまって何の危害も加えられないことが明らかになっています。
例えばF-15に搭載される衛星攻撃ミサイルASATにも、当初は破片方式の弾頭が使われる予定でしたが、結局は直撃方式に落ち着きました。現在のGBI、THAAD、SM-3はいずれも直撃方式のIR精密誘導KE弾頭を用いています。
例外的に、PAC-3の弾頭には炸薬73kgが積まれていますが、これはもちろん、このミサイルがBMD専用ではないからです。
投稿情報: ばべる | 2005-01-16 19:16
話が弾頭の種類にずれてしまいましたが、おっしゃるようなブースト段階の標的を大気圏内で破壊するというKEW計画も、存在しています。
「運動エネルギー迎撃体(KEI)」計画がそれで、これは発射直後の敵ミサイルを数十秒以内に撃ち落すための超高速ミサイル。技術的にきわめて野心的かつ困難であり、プラットフォームの配置を含めた具体的なシステムの形はまだ明らかにされていません。
投稿情報: ばべる | 2005-01-16 19:41