皆さんは、「デカレンジャー」エンディングで演奏している宇宙人バンドについてご存じあるまい。
彼らの過去について私がちと電波で受信したので、ご紹介しよう。
暴走皇帝エグゾスが引き起こした争乱が収まった後、元ボーゾックのうち少なからぬ者たちがチーキュ…
もとい、地球に定住を始めた。
しかし地球人はこれまで異星人との交流が皆無に等しく、彼らとの間に摩擦も少なからず発生した。
いきおい、彼らの生業は低賃金の単純労働が中心となる。あの宇宙人バンドのボーカル、ローロー・カビリーもそんな日常に憤りを感じていた一人であった。
仲間らとともに安酒をあおるローロー・カビリー。酔っては故郷の歌や聞き覚えたチーキュの歌を口にする彼であった。
ある日、酒場にたむろする地球の老人が彼に声をかけてくる。
人の話では「コンドルじいさん」と呼ばれる変人らしい。
「おまいさん、歌は下手だな」
「下手なやつは歌うなってのか?」
「いや。歌は上手い下手じゃねえ。肝心なのは…ここさ」
老人はその節くれ立った拳でカビリーの胸を叩いた。
以来、二人は安酒場を練習場代わりに歌いに歌った。リズムアンドブルース、ロック、演歌、ポップス…その歌声は評判になり、いつしか元ボーゾックなどの宇宙人が集まるようになっていた。
しかし、それを快く思わない地球人もいた。
ささいなことから衝突がおこり、地球人と宇宙人が酒場を挟んで対峙する。にらみ合う人々。
いさかいを止めようとするコンドルじいさんの額に、地球人の投げた小石があたった。それを皮切りに、投石やけんかが周囲に広がる。
駆けつけた宇宙警察のシグナルマンらもおさえることができない。
呆然とするカビリーの腕の中から、傷ついたコンドルじいさんが呼びかける。
「カビリー、なにをしている」
「じいさん、怪我は…」
「歌え、カビリー。歌うんだ」
「しかし、なにを…どこの歌を」
「ばかやろう! 教えたはずだぜ。国や言葉じゃねえ、人の魂に響いてこそ本当の歌だってな」
立ち上がり、カビリーは歌う。コンドルじいさんとっておきの曲、「真っ赤なスカーフ」を。
いつしか地球人も元ボーゾックらも振り上げた腕をおろし、彼の歌に聞き入っていた。
騒乱罪でカビリーらを捉えようとする警察。しかし、それをシグナルマンが制止する。
「本官はこれを争乱とは認めない。本官が確認したのは素晴らしいライブであった」
カビリーらの礼を背中で聞き、シグナルマンは去り際に言った。
「本官の許可なく、歌をやめてはならん」
その後カビリーらはバンドを結成、宇宙人のみならず地球人にもその演奏は広く愛された。
コンドルじいさんは幸せの内に天寿をまっとうしたという。
コメント