Sankei Webより。
防衛庁関係者によると、八月中旬以降複数回にわたり、南西諸島西方の防空識別圏に侵入する未確認機を空自のレーダーサイトが発見。沖縄の南西航空混成団所属の迎撃戦闘機F4がスクランブル発進し、中国軍の情報収集機を確認した。 同庁関係者によると、中国軍機は早期警戒機Y8AEWか、洋上哨戒機Y8Xとみられる。両型機はともに上空を飛び交う電子、電波情報を収集する能力もあるとされ、平成十一年に山東半島中部の基地に配備されたのを防衛庁が確認。その後、上海方面の基地に移動配備されていた。
実にまめなことで。自衛隊も少し見習ったほうがいいのかもしれんなあ(ウソ)。
電子戦能力の構築は一朝一夕にはできぬものと聞く。エレクトロニクスにおいては世界でも有数の日本ですら、先行しているアメリカよりも大きく劣るとも。 今日の中国におけるそれは、どのようなレベルにあるのだろうか? 電子機器の製造における中国の力量は並々ならぬものがあるし、フランスあたりからしっかり購入しているかもしれん。 国としての方針がそれなりに定まっているように見えるので、案外蓄積が進んでいるのではないかとも思われるのだが。
窺い知れぬ秘中の秘であるELINT/SIGINTは置いておくとして、ここではAEWの話を。
AEW機(Y-8AEWないしY-X AEW)は原潜と並ぶ中国軍の最新最強の兵器であると位置付けてよいでしょう。その中核はイスラエル製のファルコンAEWシステムで、1基あたり2億5000万ドルというべらぼうに高額なこの装置を中国は既に4基ほど購入したか、あるいは購入契約を結ぼうとしていると伝えられています。
ちなみにこの数字はE-3セントリーの1機あたり調達費にほぼ匹敵し、インフレ率を考慮に入れても、中国がいかに電子戦分野に注力しているかが分かると思います。
ところでファルコン・システムのカタログ・スペックは、最大同時処理目標数50~60個、最大同時管制要撃機数10~12機と公表されています。これは、E-2Cホークアイの能力(最大同時処理目標数600個以上、最大同時管制要撃機数40機以上)の数分の1に過ぎません。旧イラク空軍のIl-76アドナン2(同時管制要撃機数4?)よりは上ですが、今日も間断なくアップデートにアップデートを重ねているE-3セントリー(データなし)には比べるべくもないと考えます。さらにもちろん実戦では、整備性を含めた継戦能力の差がたちまち物を言い出します。
ハードウェアのみならず、ソフトウェアとその使い方の蓄積がものを言うELINT/SIGINT分野での差はさらに大きいでしょう。あるいは、4年前に捕獲したEP-3の分析結果から、中国は電子戦での遅れを痛感して急遽この分野での注力を図っているのやも知れません。
いずれにせよ、現時点では電子戦争で中国に勝機はありません。米軍に正規戦を挑めば、指揮通信系を寸断され、座したまま各個撃破を被る
公算は小さくないでしょう。その戦いが台湾侵攻戦ならば、あるいは状況は(しばしば比較される)ノルマンディー上陸作戦というよりフォークランド戦争に似たものとなるやも知れません。
投稿情報: ばべる | 2005-09-14 16:20
ところで、このような武力による威嚇は中国の対日外交政策にほとんど寄与しないことは明らかです。
A新聞を代表とする日本の親中世論は「中国は平和愛好の正義の国」という大前提の上に成り立っているので、武力の脅威はその論理を粉々にぶち壊してしまうどころか、逆に(まさに現在進行形としての)日本の対中戦備推進論に有難い大義名分をもたらしているわけですから。
このことを考えると、中国の政治と軍事の間に小さくない乖離が存在するという幾つかの推定は、間違っていないかも知れません。
投稿情報: ばべる | 2005-09-14 16:28
いつもながらご教授ありがとうございます。
日本が独力で中国と戦うはめになる可能性は低かろうと思われます。
が、ブッシュ政権もぐらついていることを考えますと、アメリカに頼り続けるのも若干心配。
電子戦において、日本が対中優位を得られるものでしょうか。
現時点はともかく、これから10年を考えると不安をおぼえます。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2005-09-14 19:54
今後10年間で、日中間の技術力差は拡大するだろうとの予測が日本の経済界ではなされています。軍事的にこれが何を意味するかと言うと、中国が技術力において西側に拮抗し続けようとするならば、
1:商取引やスパイの形で外国からの技術導入に努める
2:国内の資源を軍事技術開発に集中する
の手段を従来に増していっそう強化せざるを得ませんが、これはソ連末期のパターンと合致します。すなわち国力に対する技術力の突出は、単価が幾何級数的に跳ね上がる武器の調達が国庫への重圧になるという負のスパイラルを生み出し、長期的な結果として相対的な戦力の低下をもたらすでしょう。人民解放軍が現在の規模を保ったまま近代化することはあり得ません。
ゆえに、日本の軍事力が一定の合理的な戦略の下でバランスの取れた漸進的な発展を続けている限りにおいては、電子戦を始めとする軍事技術面での中国の脅威を深刻に受け止める必要はないと考えます。
(ソ連がそうであったように)共産主義そのものの弱みとエネルギー不足とが、いずれ中国をして自分で自分の足を食わざるを得ないような状況に追い込むでしょう。
経済力の伸張によって軍事力(軍事技術力)での優位を近い将来に期待できる国家には、このような↓戦略は発想されないものです。これはむしろ、政治と軍事との乖離の話の繰り返しになるのかも知れませんが。
http://www.epochtimes.jp/jp/2005/09/html/d51569.html
投稿情報: ばべる | 2005-09-14 21:48
しかし、中国人はロシア人と違って市場経済の経験を積んできた民族です。
はたして彼らがロシア人と同じ経済的失敗を繰り返すでしょうか。
また、某社の皆さんがのんきに中国への進出・協業を推し進めているのを日々目にしております。日本から中国への技術・ノウハウ流出は留まるところを知らぬのではないかと懸念されてなりません。
>政治と軍事の乖離
これはまことにありがたい話ですね。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2005-09-15 12:48
>市場経済の経験
中国には自由主義市場経済の伝統も経験もありません。それは「商才」とは違う次元の問題です。
一つには先進的な文明の宿命的な困難(人口、資源、環境、高価な中央集権制度等)に早くから直面していたこと、一つには商業を危険視する儒教の伝統があったことから、漢代以来の中国歴代王朝は伝統的に農本主義と統制経済によって、成長よりも社会の安定を優先させてきました。
例外は宋朝と元朝ですが、前者の資本主義的政策は農村の荒廃を招き、後者の信用経済は王朝の崩壊時に逆に原始経済への退行をもたらしました。
清朝はやはり中小農民・中小手工業者の保護を優先する強力な統制経済政策を採っていました。近代以降、中国に自由主義市場経済の原理と概念が持ち込まれたのは、鄧小平の時代が最初なのです。
西嶋定生『秦漢帝国』講談社学術文庫
周藤吉之、中嶋敏『五代と宋の興亡』講談社学術文庫
宮崎市定『中国文明論集』岩波文庫
やがて国営企業の不良債権処理に直面し、労賃での優位が失われ、石油製品の国内需要が供給を上回る時に、中国のグローバルな自由主義経済市場での競争力は真に試されることになるでしょう。GDP成長率を支える資本の7割が外国の金で、その中から毎年100億ドルが横領され海外に持ち逃げされている国の競争力は、果たしてどれほどのものになるでしょうか?
投稿情報: ばべる | 2005-09-16 02:12
ご教授ありがとうございます。
商業・商人のありようと、経済政策とは別のレベルとして考えるべき、ということでしょうか。
たしかに、それらは区別して考えねばならないですね。浅学を恥じております。
>海外に持ち逃げされている国
しかし、そんな国に経済的進出・協業を企てている皆さんが日本にいることを思うと、相対的にどっちがダメなのかよくわからんです。おお、こわ。
投稿情報: Hi-Low-Mix | 2005-09-16 05:26
中国の産業別人口比率はおおよそ1次5:2次3:3次2。一方、産業別GDP比率は1次2:2次5:3次3。
ベティ=クラークの法則に従い、開発の進展に伴い1次人口が2次人口へ移行しつつあるわけですが、果たしてその過程で発生する膨大な(まさに膨大な)労働力を如何に吸収するのか? チェック機能をまったく持たない共産党権力にコントロールが可能なのか?
この過程を阻害する要因--地域的格差、深刻な環境悪化、エネルギー不足、水不足、食糧不足等は、伝統的農本主義的な社会安定政策を放棄し、資本を局地的に異常に集中することで国家の成長率を劇的に向上させることを狙った中国政府の言わば「ドーピング政策」の副作用に他なりません。
外国資本の誘致のため、あるいは強力な軍事力の保有のために、中国が今後もドーピング政策を継続するのであれば、彼らの破滅はそう遠くはないでしょう。証券会社やマスコミの口車に乗って中国への投資・進出に宝の山を見ていた日本の企業や個人は、その時大変な経験をすることになるでしょうが。
ゴードン・G.チャン『やがて中国の崩壊がはじまる』草思社
投稿情報: ばべる | 2005-09-16 07:57